最も長い1日 ー俺たちがキックを盛り上げるー 江幡塁

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最も長い1日 ー俺たちがキックを盛り上げるー 江幡塁

「この子たちは絶対チャンピオンになる」

十数年前、まだ中学生だった睦と塁の江幡兄弟を初めて見た時、伊原信一は直感した。伊原は新日本キックボクシング協会代表とともに伊原道場の会長を務める。現役時代には500万円オープントーナメントを制するなど、日本キックボクシング協会を牽引したエネルギッシュな人物として知られる。
何をきっかけでそう思ったのかと訊くと、伊原は江幡兄弟は歩く時のバランスと姿勢が良かったと切り出した
「あとは目つき。弟の塁は気の強い子だと思いました」
睦と塁は双子の兄弟。ルックスは似ているが、塁は性格は全然違うと感じている。
「睦は本当にまっすぐ。対照的に僕は臨機応変にうまく切り抜けるタイプだったりする。そして僕の方が好奇心旺盛で、いろいろなことに挑戦したがる。私生活では性格が違いすぎて同じ部屋には住めない(微笑)。僕の方が几帳面ですね。生活感のある部屋がダメだけど、睦は子供みたいに大きなものが好き。僕は基本ひとりでいるのが好きだけど、睦は友達を呼んでワイワイやっている時もある」

 

性格の差はファイトスタイルの違いにも現れる。伊原は意識して違うスタイルを教えたと打ち明ける。
「みんな一緒だと思っているみたいだけど、それだと個性が光らないからダメ。睦は根っからのファイターだけど、塁はボクサータイプですね」
プロデビュー戦は新日本キックボクシング協会主催の07年9月16日の後楽園ホール大会だった。4年後には2度目のアベック出場を果たし、ともに日本タイトルマッチで勝利を収めた。

 

 

睦がバンタム級ならば、塁は一階級上のスーパーバンタム級だ。このクラス分けはいまも変わっていない。なぜ階級が違うのか。その理由として伊原はタイの王座を狙っているからと明かした。
プロモーターの関係で狙わせているのはラジャダムナンスタジアムのベルト。ベルトはひとつしかないので、同じ階級だったら難しい問題が出てくる」
3度目のアベック出場は2013年9月16日。後楽園ホールで揃ってラジャダムナンスタジアム認定の王座に挑戦したのだ。それから4年、同時出場はなかなか実現しなかった。
というのも、睦と塁は押しも押されぬ協会のエース。睦がWKBA世界バンタム級王者ならば、塁はWKBAは世界スーパーバンタム級王者に君臨中。交互に出場する方が興行的には都合がいい。

 

睦が試合の時にはトレーニングパートナーとして塁がサポートを、塁が試合の時には役回りが逆転する。兄弟にとっては、そのローテーションが当たり前だった。
それから4年、江幡ツインズの4度目の同日試合がようやく実現する。今回は前回や前々回と異なり、同じ興行に出場するわけではない。塁がKNOCK OUTに出場したあと、睦は時間差で両国国技館から電車に乗れば10分もかからない後楽園ホールのリングに立つ。ずっと一緒に練習してきた塁にとって兄との同日出場はうれしくて仕方がない。
「4年間ひとりで頑張ってきたけど、今回は4年ぶりにふたりで試合に向けての練習をしています。これだけ高いクオリティの練習はなかなかない。そういう時期に一緒に試合ができるというのは本当にいいことだと思いますね」
過去に塁はタイのラジャダムナンスタジアムに2度上がった経験があるが、国内では協会以外のリングに上がったことはない。
対照的に睦は有明コロシアムでの戦極やさいたまスーパーアリーナでのGLORYに出場した経験を持つ。塁は自分も早く大きな大会に出たいと願った。
「やっぱりふたりでやっているので、自分はそういう器ではないのかなと悩んだ時期もあります。ただ、改めて振り返ってみると、僕たちはずっと先まで試合が決まっていたので、その間に割って入るということでたまたま睦だったんだと思います

 

兄のセコンドとして、塁は大会場の入場ゲートを歩いた。
「実際に自分はリングに立っていないけど、いつもと違う空気感を感じました。大勢の人が見てくれているということで、まわりの環境もザワザワしていた記憶がある。いつもとは違う緊張感を感じました。大会場では、どれだけ自分が自分のままでいられるかが課題になってくると思いますね」
ヒジ・ヒザありのピュアなキックボクシングを全面に打ち出したKNOCK OUTには大きな魅力を感じている。
「この大会は今まで格闘技を知らなかった人たち、フィットネスでちょっとだけキックに興味を持っている女子に向けてすごくわかりやすくキックを伝えているイベントだと思う。キックにはいまだに怖いというイメージを持っている人にも、僕が出て実力を示すことで、キックそのものの魅力を伝えられるんじゃないかと思います」
キックそのものの魅力──それは倒して勝つという至ってシンプルなものだ。
もともとキックは相手に打撃を与えてダメージを与えるというルールに基づいて作られた競技。それにキックはテクニックが美しい。基礎があって、きれいなテクニックがあって、無駄なく強い」

無駄なく強いとは?

 

「ハイ。見ていて美しいものにみんな心を惹かれる。それを実際に両国で体現できたらみんなにレベルの違いを見せられるんじゃないかと思います」
山手線や総武線の各駅の構内に貼られた大会ポスターも塁のモチベーションを高める大きな原動力になっている。かつてヒジ・ヒザありのキックボクシングがこんなに大きくPRされることはなかった。
「ジムの後輩もポスターを観たら、『次は俺も頑張ろう』というふうになるじゃないですか。KNOCK OUTに出ることで、先輩として一番わかりやすい背中を見せられるんじゃないかと思っています」

 

自分より一足早くKNOCK OUTに出場した協会傘下の選手の試合は観た。8月20日の『KNOCK OUT VOL.4』でのWBCムエタイ・インターナショナル・スーパーウェルター級王者の宮越宗一郎に敗れた元日本ミドル級王者・緑川創とNKBフェザー級王者の村田裕俊に5RTKO勝ちを収めた日本フェザー級王者(当時)重森陽太の試合だ。
緑川さんの安定した闘い方からしたら負ける試合ではなかったと思うけど、ああいう結果になってしまった(5R残り時間数秒で宮越が左フックでダウンを奪って劇的な逆転勝利)。(重森)陽太君もいつもとは違う固さがあると思いました。他のリングで自分を出し切るというのはとても難しいだろうと思いましたね」
協会は日本でキックボクシングをスタートさせた目黒ジムが中心となり、1966年1月に発足した日本キックボクシング協会がルーツだ。途中で名称が変わったり他の組織と一緒に行動した時期もあったが、最も歴史のある団体であることに変わりはない。その部分に塁は大きな誇りを持つ。
「自分は新日本という老舗団体の選手なので、プライドを持ってKNOCK OUTのリングに出て行くことが必要だと思います」

団体の看板を背負って闘うということ?

 

「そうですね。キック界で唯一新日本キックは日本プロスポーツ協会(プロ野球、ゴルフ、大相撲、ゴルフ、テニスなど国内のプロスポーツ全体を傘下にいれた政府直轄の組織)に加盟している。僕らはそこのエースといっていただいているので、睦とは『俺たちが盛り上げなければ、誰がキックを盛り上げるんだ』という話をしています」

 

対戦相手は宮元啓介に決まった。宮元はWBCムエタイムエタイ・インターナショナル・スーパーバンタム級王者。″居合パンチャー″町田光、無敗のままREBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級王者になった安本晴翔ら現役王者を数多く輩出するチャンピオン製造メーカーというべき道場に所属する。以前に一度だけ新日本キックのリングに上がった時には塁もチラッと見た記憶があるという。
「10月のKNOCK OUTで初めてしっかりと宮元選手の試合を見せてもらいました(VS野呂裕貴。宮元がハイキックで3RKO勝ち)。最初はすごく気持ちが弱い選手なのかなと心配したけど、臆病な彼だからこそ持っている強さがあると思いました」

練習で培った自信で奮い立たせている感じ?

 

「そうですね。だからしぶといし、試合では全く気を抜かない。後半に強いというのもわかります。最初は押されてしまったりするけど、自分の気持ちの良さをわかっているから『最後まで頑張ろう』と思いながら闘っている。全く気を抜けない選手だと思いますね」 攻撃では、野呂を倒したハイキックのほか、足の指を立てみぞおちに食い込ませて悶絶させる三日月蹴りをよく出している印象がある。
「使い分けはうまい。基本は空手スタイル。僕とはちょっとした間の違いもあると思うので、実際に闘うのが楽しみですね」
パワーやスピードでは宮元を上回っていると感じている。
「僕たちはタイ人とずっと闘ってきたけど、その時には必ず駆け引きがあった。タイ人との試合を積み重ねている僕の方が駆け引きの強さもあると思いますね」
試合時間は3分5R。塁は「3Rより5Rの方が自分の持ち味を出せる」と歓迎する。「僕も宮元選手も後半タイプなので、3Rだと短い。途中で決着がついてしまうかもしれないけど、5Rだったらお互い気持ちのいい闘いができるんじゃないですか」

(続編に続く)

(取材・構成 布施鋼治)

 

 

布施鋼治

1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは’90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「なぜ日本の女子レスリングは強くなったのか 吉田沙保里と伊調馨」(双葉社)「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。

 

「KING OF KNOCK OUT 2017 in両国」

◆日時
2017年12月10日(日) 開場13:00 開始15:00

両国国技館(http://www.sumo.or.jp/Kokugikan/

◆アクセス
〒130-0015 東京都墨田区横綱1丁目3-28
JR総武線 両国駅西口下車 徒歩2分
都営地下鉄大江戸線 両国駅下車 徒歩5分

◆入場料金(消費税込み)
砂かぶり席(椅子席)     ¥20,000 ※完売
アリーナA(桝席)     ¥12,000 ※完売
アリーナB(桝席)      ¥8,000 ※完売
アリーナC(桝席)      ¥7,000 ※完売
2階スタンドA(椅子席)  ¥7,000  ※完売
2階スタンドB(椅子席)  ¥5,000  ※完売
2階スタンドC(椅子席)  ¥3,000
小中高生          ¥2,000 ※当日のみ/要身分証
※当日券は各1000円アップ

◆チケット発売所

チケットぴあ    0570-02-9999(Pコード)
https://goo.gl/2HE3CP
ぴあカウンター、セブンイレブン各店、サークルKサンクス各店、ファミリーマート各店