お知らせ

ヒラリ、そしてまたヒラリ(続編) 金原正徳

その後、練馬の『TRIBE TOKYO M.M.A』で練習している時、同ジムの代表・長南亮から声をかけられた。
「次、どうするの?」
「キックボクシングの試合に出てみたいんですよね。小野寺さんに話を振ってもらってもいいですか?」
以前から長南は小野寺と交流があることを知ったうえでのお願いだった。
「だったら聞いてみるよ」
それから話はとんとん拍子に進み、金原は34歳で2回目のデビュー戦を迎えた。初めての挑戦だったが、キックだけの練習をして臨もうとは思わなかった。
前回は開き直ってMMAのキックをやればいいという感じだった。だからどこのキックのジムにも行かなくて、キックボクサーとスパーすることもなかった。従来のMMAの練習の中で、ちょっと多めに打撃のそれをやっただけで臨みました」
UFCでも経験していたので、ヒジ打ちありのルールに抵抗はなかった。
「日本のMMAは途中からヒジありになったけど、ずっとUFCを見ていたし、UFCに出たいという気持ちが強かったのでヒジに対する違和感はなかったですね。試合でもヒジは結構使います。組んでからも、カウンターでも、入りっぱなでも出せる」
結果として中尾戦でも金原はヒジを違和感なく使っていた。その一方で、軌道修正をしなければならない部分も多々あったという。そのひとつは距離の測り方だった。
「(MMAのキックのままやって)いい部分もあったけど、ダメな部分は本当にダメだった。キックボクシングは手数でのポイントの取り合いだったりもする。5Rは長いし、そういうところにも重点を置かないといけないと思いました」
キックと同じように、MMAでもパンチやキックを打ち込む。しかし、MMAはタックルや組み合う局面もあるので、スタンドの打撃の使い方は大きく違ってくる。

例えば、キックに比べるとMMAではミドルやハイなど打点の高いキックを打つ選手は極端に少ない。蹴り足をキャッチされたら片足という不利な態勢のままグラウンドに持ち込まれるケースが想定されるからだ。
パンチもキックボクシングなら通常のボクシンググローブで打つがMMAは関節技や絞め技のために指が自由に使えるオープンフィンガーグローブを着用する。金原はパンチの打ち方ひとつとってみても違うと主張する。
「MMAではそんなに強く殴らないんですよ」

──どういうこと?

「僕はタイミングが合っていれば、拳をグッと握っていえば、絶対倒れると思っている。なのでタイミングだけはずっととってきたつもり。でも、そのやり方だとキックでは倒れない。もっと思い切り殴らないとダメということがよくわかりました」
MMAのようにタックルやグラウンドがないことも金原はやりづらかったと打ち明ける。
「タックルがあろうとなかろうと、自分が攻めている時はいいんですよ。でも、守りに入ったり、一発をもらったり、疲れてしまったら組んでやすみたい。もともと僕は組みの選手なので、試合は組んで組み立てたい。そういう気持ちがある。だからキックでも『自分の武器(組み)がなくなったらどうしよう』という不安はすごくありましたね」
確かにMMAではいいパンチを一発もらっても、意識があれば、クリンチして息を整えることも可能だ。しかし、キックだとそういうわけにもいかない。攻撃を伴わないクリンチは即座にレフェリーからブレイクを言い渡される。回数が多ければ、減点の対象にもなる。もしそうなったら、どうする?
「打ち合いをするしかない。今回はその覚悟を持っておかないといけない」
計6度のダウンの応酬となった不可思VS勝次も観た。金原は「面白い。いい試合ですよね」と言いながら、揺れ動く心情を吐露した。「ああいう試合はしたくないけど、ああいう試合を見せたい。野球でいうところのホームランゲームではないけど、(キックボクサーとしたら)理想的な試合ですよね。でも、選手としたら、ああいう試合はやっぱりしたくない」

見せたいけど、したくない。一見矛盾しているような発言にも受け取れるが、選手は白黒ハッキリとした世界に生きているわけではない。それも、金原にとっては正しい感情なのだ。
勝次に先制のダウンを奪われたあと、不可思は2度ダウンを奪い返し、試合の流れをひっくり返した。しかし、それからも守りには入らず打ち合うところは打ち合ったがゆえに勝次の逆転KOを許した。
金原は、ケンカ上等も彼の性格と分析した。
「あそこで守りきれないのが彼の強みであり、魅力でもある。仮にセコンドがポイントを守りきるように指示したとしても、どうするかをチョイスするのは本人ですからね」

今回両国国技館で闘うことが正式に決まった時、金原は真っ先に2010年6月20日、同じ会場で組まれたマルロン・サンドロとの一戦を思い出した。09年に開催された戦極(のちにSRCに改称)フェザー級GPで金原は決勝で小見川道大を撃破して優勝。その勢いで同年大晦日にはdynamite!!にも参戦し、当時人気絶頂だった山本″KID″徳郁も撃破するなど絶好調だった。
フェザー級GPを制したことで金原は初代SRCフェザー級王者として認定され、サンドロとの初防衛戦に臨んだ。
サンドロはリオデジャネイロのファベーラ(スラム街)出身。日本ではパンクラスやSRCで活躍し、″リオの怪物″の異名を持つブラジリアン柔術がベースの選手だ。
王座奪取に燃えるサンドロは試合開始早々右アッパーをクリーンヒットさせ秒殺KO勝ちを収め、王座を奪取した。それから7年、悪夢のような一戦を金原は振り返る。
「あの一戦も5Rだったけど、40秒くらいでKOされてしまった」
次戦はサンドロ戦の半年後に組まれた有明コロシアムで組まれた当時SRCと並ぶ国内MMAのビッグイベント『DREAM』を主戦場にしていた前田吉朗戦だった。
向かい合った時、金原は楽勝だと直感した。案の定、右ストレートがクリーンヒット。さあとどめを刺しにいこうと思った矢先にカウンターのフックをもらって逆転KO負けを喫してしまった。
「いけると思ったことが裏目に出る時もあるということです。前田戦のように、行き過ぎて倒されることもある」

グラップリング競技は組み合った瞬間に相手の技量がわかるという話がある。
ではキックボクシングでは?
「実際に拳を交わさなくても、向かい合っただけでだいたいわかると思います。僕はリズムだったり、距離を気にする。リズムを言葉で表現するのは難しいけど、簡単にいうと感覚なんですよね」
ファイターとして不可思より勝っている点──それは成功も失敗も含めていろいろな経験をしていることに尽きる
キックという土俵のうえでの経験値は不可思選手の方が何倍も上。でも、格闘技と向き合っている時間は僕の方が長い。彼は若いし、自分がKNOCK OUTの中心選手になりたいわけじゃないですか。目立ちたいし、お金もほしいと欲だらけ。それでいいと思う。対照的に僕にはそういう欲が一切ない」

──欲がない?

「僕はお金を持って、あるいは地位を得て、ダメになった人をたくさん見てきました。別に自分がお金や地位を得てダメになるとは思わないけど、家族が飯を食べて行けるだけのお金があればいい。満足に練習できる環境と時間があればいい。そしてまわりに応援してくれる仲間がそれでいい」
この一戦はキックVSMMAとともに、欲だらけVS無欲という対立図式で見ることもできるのか。10月4日、東京・後楽園ホールで開催された『KNOCK OUT vol.5』では、両者がリングイン。ファンの前で正式に対戦カードが発表されたが、記念撮影の際には不可思が金原につっかかり、一発触発となる場面もあった。
詰め寄った不可思を突き放した金原は本当は乱闘のひとつやふたつやりかったと本音を漏らした。
「僕も試合を盛り上げたいし、いろいろ言いたい。でも、ジムをやっている立場なので、(会員の)親や子供に見せられない行為はやりたくない。『プライベートではいい人』という評価はどうでもいいわけで(笑)エンターテイナーとしてはやらなければならないというのもあるけど、僕にはできない」

 

金原は立川にリバーサルジムALPHAというジムを2つ構えている。格闘技を生業とする者の暴力事件が社会を賑わす昨今、たとえパフォーマンスであっても、粗暴に見える行為をすることは許されない。
格闘技を教える立場の人間がリングやケージの外で拳を振り上げるというのは。ジムがなかったら、何でもできるんですけどね(微笑)」
不可思戦に向け、金原はキックボクシングジムへの出稽古を欠かさない。12月10日のKNOCK OUTにも出場する重森陽太が所属する伊原道場稲城支部にも足を運ぶ。金原と一緒に練習したキックボクサーは一様に「やりにくい」とこぼす。その理由について訊くと、金原は自分はキックボクシングにはないスタイルだったりするからと分析した。
「リズムだったり。MMAファイターとして独特のものですかね。僕が純粋なキックボクサーになるのは無理。なので、もともと持っているものを活かしながら、キックの型にハメていくしかない」
いまは自分がやられたらイヤなことを不可思に対してやろうと考えている。
「出たとこ勝負はやめようかなと。そういうのが通じる相手でもないし、今回は2カ月ほど準備期間もあったので、練るところは練っています。最終的には行かなければならないところはそうしなければいけないと思うけど、5Rをしっかり堪能したい」
不可思の攻撃で注意すべき点は多々ある。「倒せるパンチだったり、足を止めるローキックだったり。あとは勢いですかね。彼は自分が負けることに対しての怖さがないと思う。サムライではないけど、刺し違える覚悟を持って向かってくる。逆にそこは自分にとってもチャンスだけど、一番怖いところでもありますね。KO? それは相手次第。すでに不可思選手の出方は想定しています。でも、深読みしすぎて、試合中にテンパるのもイヤ。さっきの話に戻っちゃうけど、最後は経験がモノをいうんじゃないですか」

忘れてはいけない。金原はMMA最高峰のイベント『UFC』で3戦も闘っているということを。だからこそキックのデビュー戦で5回戦という破格の扱いを受けたのだろう。
動きを参考にしているキックボクサーもいる。かつてK-1ワールドMAXの世界王者として活躍したジョルジオ・ペトロシアンだ。闘牛士のように相手の攻撃をかわしながら相手が疲れたところでとどめを刺すペトロシアンのスタイルを金原は理想と考える。
「僕もああいうふうに闘いたい。不可思選手を倒したら、″和製ペトロシアン″と呼んでください(微笑)」
両国のリングで、UFCでも勝利を収めた男はヒラリ、そしてまたヒラリと舞い続けるのか。

(取材・構成 布施鋼治)

 

布施鋼治

1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは’90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「なぜ日本の女子レスリングは強くなったのか 吉田沙保里と伊調馨」(双葉社)「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。

「KING OF KNOCK OUT 2017 in両国」

◆日時
2017年12月10日(日) 開場13:00 開始15:00

両国国技館(http://www.sumo.or.jp/Kokugikan/